渋谷区における「子どもたちの安全なインターネット利用のための地域密着型教育啓発事業」現地レポート
子どもネット研では第三期の調査研究活動の成果から、子どもたちのインターネット利用に関連する諸問題への対応力を、「地域全体」で向上させるための複合的なプログラムを開発しました。
これを受け第四期活動の一環として、東京都渋谷区内の公立小学校二校にもご協力をいただき、プログラム改善と提示仮説の効果検証を目的とした教育実践に取り組みます。
子どもネット研が提供する本プログラムでは、小学校または中学校を当該地域の軸と位置づけ、まず初めに地域内の子どもたちや保護者のインターネット利用実態等を調査し、その結果を学校と保護者が共有します。その上で、子どもたちの能力向上や危険回避行動を支えるべき保護者や教職員など、周囲の大人への研修会を重点的に実施します。
このページでは、一足早く事業を展開中の横浜市本牧地区と同様、東京都渋谷区における毎回の講座の様子などを、現地レポートとして順次お伝えしていきます。(報告・担当講師:高橋大洋/子どもネット研事務局)
主催 | 子どもたちのインターネット利用について考える研究会 (実施担当:ピットクルー株式会社/子どもネット研運営協力企業) |
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協力 | 渋谷区立臨川小学校、千駄谷小学校 |
後援 | 渋谷区教育委員会 |
協賛 | 株式会社ディー・エヌ・エー |
第一回講座現地レポート – 2012年9月26日開催
日時 | 2012年9月26日水曜日14時45分〜15時45分 |
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会場 | 渋谷区立千駄谷小学校会議室 |
参加 | 同校教職員のみなさん 18名 |
渋谷区内での本事業の皮切りは、いつも多くの若者でにぎわう原宿・竹下通りのご近所、千駄谷小学校校内での教職員向け講座となりました。
子どもたちのインターネット利用の環境整備や、トラブル対応の主役となるのが、それぞれの子どもの気質や発達段階、毎日の生活の様子をきちんと把握している各家庭の保護者であることはもちろんです。しかし、学校が果たせる役割も決して少なくありません。地域内のインターネット利用教育の「ペースメーカー」として、調べ学習でのインターネット利用や、情報モラル教育など児童向けのインターネット利用教育を進めることはもちろん、子どもたちのインターネット利用状況などの定量的な把握と地域内での共有を実現するのにも、学校の力が欠かせないのです。
ところが日々現場に立たれている先生方は、最新のインターネット利用問題について俯瞰的に学ぶ機会に恵まれているわけではありません。そこで、今回の取り組みでは、先生方を対象に、状況をおさらいし、対処の原則を確認するための研修会を先行させることになりました。
講座の冒頭、千駄谷小学校の長野校長先生から趣旨説明をいただきました。
その後、講師からのご説明は、「家庭の役割と学校、先生方への期待」に始まり、「子どもたちの利用の特徴」、「トラブルの実態」「人気サービスの構造」「安全かつ適切な利用のための対処原則」「最新の課題」という構成で進行しました。
また、講師からの恒例の質問である「ブログや交流サイトの利用有無」「スマートフォン所持の有無」では、事前の予想よりも多くの先生方が、既に使われているとの回答となり、先生方の間にも、変化が着実に迫ってきていることが実感されました。その意味では、ご用意していた講座カリキュラムのレベルは、一部の先生にはやや物足りないものだったはずで、研究会としては、今後の改善検討項目ということになりました。
限られた時間のため、残念ながらグループワークなどを組み込む余裕はありませんでしたが、お忙しい中、講座に積極的に参加いただいた千駄谷小学校の先生方、ご協力ありがとうございました。
【今後の展開】
地域内の子どもたちのインターネット利用の実状を定量的に把握するため、同校の保護者のみなさんには、アンケート調査のご協力をお願いしており、既に回答用紙の回収が始まっています。
集計速報がまとまり次第、調査結果は学校から全校保護者へと紹介されます。また、子どものインターネット利用問題に興味を持たれている一部保護者のみなさんを対象に、11月と12月に前後編構成の講座が開催される予定です。
第二回講座現地レポート – 2012年10月3日開催
日時 | 2012年10月3日水曜日15時〜16時 |
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会場 | 渋谷区立臨川小学校ふれあいルーム |
参加 | 同校教職員のみなさん 16名 |
渋谷区内での本事業のもう一つの舞台、渋谷区立臨川小学校でも、いよいよ講座が始まりました。その初回は教職員向けの事前学習です。
一般に小学校の先生方は、子どもたちに勉強(科目)を教えるだけでなく、勉強以外の面での子どもたちの成長を支えることに、かなりの時間を費やしています。その延長として、インターネット利用によるトラブル遭遇時に、何らかの理由で保護者にはそれを打ち明けられない児童からのSOSを上手に受け止めたり、また同級生同士でのインターネット上でのもめ事を、生活指導の中で上手に解決に導くなど、学校の先生方の肩にかかる期待は大きくなるばかりです。
そのために先生方に求められているのは、子どもたちに人気のサービスを、予め全て把握しておくことではありません。子どもたちのインターネット利用トラブルの本質や方向感を大まかにでも把握していただくことのほうがずっと大切です。
前回ご報告した千駄谷小学校での教職員向け講座と同様、今回も講師からのご説明は、「家庭の役割と学校、先生方への期待」に始まり、「子どもたちの利用の特徴」、「トラブルの実態」「人気サービスの構造」「安全かつ適切な利用のための対処原則」「最新の課題」という構成で進行しました。
ちなみに、先生方自身のインターネット利用状況は実に様々です。若い先生の中には、スマートフォンやコミュニケーションサイトを自由に使いこなしている例がある反面、ベテランの先生方にとっては、携帯電話でのインターネット利用はメールくらいでもう十分という方も少なくないでしょう。
今回の講座でも、子どもたちのトラブル実態についてはもうよく知っているという方がおられました。しかし、そういう先生にも、人気サービスの要素や、収益構造、安全対策などのご説明は、新鮮な情報と感じられたようです。また、いままでぼんやりとしていた利用リスクや問題の背景、構造が、今回の講座を通じて具体的にイメージできるようになったという先生もいらっしゃいました。
今回の講座では、問題の中身の理解を深めるだけでなく、先生方の課題対応のベクトル合わせや、インターネットの技術面に詳しい先生とそうでない先生の間での助け合い、教え合いの出発点を設定することにも重点がありました。これで臨川小学校では、保護者講座の準備が整ったことになります。
第三回講座現地レポート – 2012年10月17日開催
日時 | 2012年10月17日水曜日10時45分〜12時10分 |
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会場 | 渋谷区立臨川小学校ふれあいルーム |
参加 | 同校保護者のみなさん 18名 |
渋谷区立臨川小学校の保護者向け講座に集まったのは、PTA役員を中心としたみなさんでした。 今回の講座は、二回連続構成の「前編」であり、主に状況の理解を目的とした内容です。子どもたちのインターネット利用は、大人とはかなりの違いがあることを正しく認識した上で、子どもたちに人気のあるサービスが、どのような中身なのかをなるべく俯瞰的に整理しておくことが目標でした。
具体的には、「メディアとしてのインターネットの特徴」、「子どもたちの利用の特徴とトラブル」、「人気サービスの構造と利用リスク」の順に、講師からのご説明を行いました。またその後、実際にパソコン画面をスクリーンに投影して、子どもたちに人気のサービスをリアルタイムで見ていただきました。
申し訳ないことに講師の手違いで、サイトへの新規登録の手順をご覧いただく部分についてはご覧いただけませんでした(その場で送られて来た会員登録完了メールが、迷惑メールとして自動分類されてしまっていたのが原因でした)が、大人にはなじみの無いサイトが、遊びとしてどのような魅力を備えているのか、その実際を体感できたのは、貴重な時間と思っていただけたようです。
講座の最後には、簡単なグループワークも行いました。受け身で講師からの話を聞くだけではなく、失敗談や分からないことをグループ内の保護者どうしで共有することは、学校や地域ぐるみでインターネット問題に取り組む上では大切なプロセスです。状況の理解や、子どもへの接し方について自信が無いのは自分だけではないということが確認できて、講座の始めにはやや緊張気味だった受講者のみなさんも、グループワークを終える頃には、少し肩の力が抜けたように感じられました。
さて、およそ一ヶ月後に開かれる講座の後編では、本日の内容を受けて、具体的に家庭ですべきこと、出来ることを整理していくことになります。参加者アンケートには、次回講座で補足の解説を期待する項目を多数ご記入いただきましたので、講師はそれを織り込んで準備を進めます。
第四回講座現地レポート – 2012年11月1日開催
日時 | 2012年11月1日水曜日10時〜11時50分 |
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会場 | 渋谷区立千駄谷小学校会議室 |
参加 | 同校保護者のみなさん 25名 |
先月の臨川小学校に続き、渋谷区立千駄谷小学校でも、保護者向けの講座が始まりました。
二回連続構成の前編となる今回の講座では、「子どもたちのインターネット問題を正しく知ろう」というサブタイトルの通り、我々大人がつい先入観でとらえてしまいがちな、子どもたちのインターネット利用問題について、頭の切り替えをしていただくとともに、人気サービスの画面をリアルタイムでご覧いただきながら、子どもたちが気づきにくいインターネットの特性について、しっかりと把握することが目標となります。
実際には「子どもたちの利用の特徴とトラブル」「人気サービスの構造と利用リスク」という順序で進行し、大人の多くとは異なり、子どもたちの利用が参加発信型であることや、発信の舞台となっているサイトは、複雑に見えても、その要素を分けて考えれば、それほど難しくないことをご説明しました。
また、こうした座学だけでなく、講座の後半ではグループワークの時間も取り入れ、自分だけでなく、誰もが不安や疑問を持っているということを、受講者同士で確認していただく機会としました。
受講者のみなさんのアンケートでの評価はおおむね良好でした。また、動画サイトでの保護者管理の方法など、次回の後編に向けての質問や要望も多数いただくことが出来ました。
なお、受講者の中には、既に発信参加型のサイトを自ら日常的に発信型で利用されている方もおられ、実態をよくご存知であるがゆえに、自分の子どもや周囲の家庭での利用状況について強い不安を感じるとの声もいただきました。
次回の講座(後編)では、冒頭で寄せられた質問などへの解説を予定しています。
第五回講座現地レポート – 2012年11月14日開催
日時 | 2012年11月14日水曜日10時45分〜12時15分 |
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会場 | 渋谷区立臨川小学校ふれあいルーム |
参加 | 同校保護者のみなさん 14名 |
前回の講座からおよそ一ヶ月、再び渋谷区立臨川小学校にお邪魔しました。
今回の講座は、二回連続構成の「後編」にあたります。みなさまお仕事などで何かとお忙しい中、本日の参加者のうち、約6割の方は前編も含めた連続受講となり、残り4割は、前編の様子を聞いて興味を持たれ、後編のみ参加いただいた方々でした。
講座の後編は、前編のアンケートに記入いただいた質問の解説から始まります。
今回は「5分以内に返信など、子どもたち同士での暗黙のルールの背景が知りたい」とのご質問に関連して、ネット依存傾向についての基礎的な情報をご提供した他、人気サービスでの典型的なトラブル事例やサイト上での課金手段などを、具体的にご覧いただきました。
このように、講座終盤の質疑応答だけでは十分にご説明できないようなものについても、具体的な材料を準備して臨むことが出来、また受講者のみなさんにとっても、アンケート用紙で気軽に質問することができるのは、連続開催スタイルの一つの利点と言えるかもしれません。
その後、「段階的利用解禁の考え方」「保護者支援ツールの紹介とルールの決め方のヒント」と、子どもたちのインターネット利用問題の現状を受け、家庭や地域での取り組みに必要な考え方についてのご説明が続き、再びグループワークスタイルにて、受講者それぞれの問題に引き寄せた後で、最後に「地域での取り組みのヒント」をご紹介しました。
このうちもっとも参考になったとされたのは、「段階的利用解禁の考え方(子どもネット研が提唱する段階的利用モデル)」でした。中には、あちこちで推奨されている「フィルタリング」の使い道が、初めて納得できたという方もいらっしゃったようです。
合計20名以上が自発的に参加された今回の保護者向け講座は、これでいったん終了となります。今後は、それぞれの日常の中で、各家庭での取り組みが前向きであり続けることを期待したいと思いました。
第六回講座現地レポート – 2012年11月17日開催
日時 | 2012年11月17日土曜日8時30分〜9時15分 |
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会場 | 渋谷区立臨川小学校ふれあいルーム |
参加 | 同校5年生全児童 35名 |
子どもネット研は、保護者向けの支援がその設立趣旨であり、モデル教材の提供やモデル講演についても、保護者を対象したものに焦点を合わせて活動しています。
しかし今回の地域密着型教育啓発事業では、学校側からリクエストをいただいた場合には、 保護者向け講座で重視しているポイントと同期した形での、子どもたち向けの講座もお手伝いする試みが含まれています。
そこで、渋谷区立臨川小学校では、学校公開日に、児童向けの特別授業を担当させていただきました。
今回の講座では、子どもたちの理解度や、事前の調査結果で把握された実際の利用の度合いなどを総合的に勘案の上、5年生を対象に開催しました。
内容としては、保護者向け講座でも強調している「発信利用のリスク」について、「何をしてはいけないか」と「それはなぜなのか」をあわせて知ってもらう事に重点を置きました。
パソコンやゲーム機を大人よりもスイスイと操作できる子どもたちですが、インターネットの仕組みについては、教わる機会が案外と少ないものです。「メールが届く仕組み」「ホームページを公開すると掲載したデータはどのように広まるのか」といった点について学び、不注意や悪ふざけでの不適切な発信が、どのような結果になるのかを子どもたち自身に理解してもらうことで、インターネットのデビュー時期に必要な最低限の備えとなることを目指しました。
また今回は小学5年生向けということで、プレゼンテーションソフトの投影だけでなく、実際に身体を使って体感できるような工夫もこらしたことで、インターネット上でのふるまいは全てが記録され、いったん発信した情報は回収が不可能なことを、多くの子どもたちに深く理解してもらうことが出来たようです。
子どもネット研では、子どもたちへの講座の開催は、即効性が高いものの、それを支える保護者向けの講座との相乗効果が出るように、うまく組み合わせることが必要不可欠と考えてきました。今回の地域密着型教育啓発事業で、その原型となる取り組みが実現できたことについて、学校側の協力に改めて深く感謝したいと思います。
第七回講座現地レポート – 2012年12月4日開催
日時 | 2012年12月4日水曜日10時〜11時30分 |
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会場 | 渋谷区立千駄谷小学校会議室 |
参加 | 同校保護者のみなさん 16名 |
千駄谷小学校での講座は、約8割が前編も含めた連続受講となりました。お仕事の関係などで、前編のみの受講になった方もいらっしゃいましたが、約2割の方は周囲から聞いて、後編のみ自発的に参加されたという嬉しい状況になりました。
後編の冒頭では、前回アンケートでのご質問への解説をじっくりと行っています。今回は、動画サイト上での不適切動画への対策(セーフモードでの閲覧)の設定方法、無料通話アプリの解説、サイトの収益構造(フリーミアム型のビジネスモデル)などがテーマとなりました。
その後、「段階的利用解禁の考え方」「保護者支援ツールの紹介とルールの決め方のヒント」と、子どもたちのインターネット利用問題の現状を受け、家庭や地域での取り組みに必要な考え方についてのご説明が続き、再びグループワークスタイルにて、受講者それぞれの問題に引き寄せた後で、最後に「地域での取り組みのヒント」をご紹介しました。
このうちもっとも参考になったとされたのは、「段階的利用解禁の考え方(子どもネット研が提唱する段階的利用モデル)」でした。中には、あちこちで推奨されている「フィルタリング」の使い道が、初めて納得できたという方もいらっしゃったようです。
合計20名以上が自発的に参加された今回の保護者向け講座は、これでいったん終了となります。今後は、それぞれの日常の中で、各家庭での取り組みが前向きであり続けることを期待したいと思いました。
講座終了後の個別質問やアンケートでは、受講者から、「アプリ利用のことなど、自分も最近、携帯電話からスマートフォンに変えてみて、初めて理解できたことが少なくない。」といった、スマートフォンの普及に伴う指導上の不安が多く挙げられるとともに、今後、講座や調査などを組み合わせた、地域向けの総合的な施策が展開されることに対しての期待の声が寄せられました。
なお今回の講座は、90分間という枠の中に、昨年度、4回に分けて開催した「ネットサポーター養成講座」に相当する内容を詰め込んだもので、受講者にはやや負担の大きいものだったかと思います。参加いただいた先生方、保護者のみなさん、大変お疲れさまでした。